指導者・選手のための医科学ガイド

スポーツ医科学委員会の有賀です。
これから少しずつ指導者や選手のためになる情報を発信していきます。
第一弾は、バスケットボールのケガで多い足首の捻挫についてです。
たかが捻挫と思わず、しっかり対応する事が再発予防やパフォーマンスの向上に繋がる為、
是非チェックしてみてください。
目次:
1.バスケで捻挫はどれくらい起こる?
2.捻挫が起こる典型的な場面
3.なぜ足関節(外側)捻挫が多いのか?
4.捻挫の重症度
5.捻挫をした時の正しい対応
6.捻挫は予防できる?
1.バスケで捻挫はどれくらい起こる?
国内外の研究で、バスケットボールのケガの中で足関節捻挫は全体の40〜50%を占めると報告されています。(McKay GD et al., Br J Sports Med, 2001)
中学生〜高校生ではこの割合はさらに増え、部活動でのケガの約半数が足首という報告もあります。
では実際にどんな場面で捻挫が起こるのでしょうか?
2.捻挫が起こる典型的な場面
文献や実際の症例から、捻挫が起こる場面は大きく3つに分類できます。
① ジャンプからの着地
② 横方向・後方への移動(ディフェンスの動き)
③ ストップ動作・方向転換
「ジャンプ」+「着地」+「急な方向転換」この3つが重なるバスケは、構造的に捻挫が多いスポーツなのです。
捻挫をすると痛がる場所が大まかに決まってきます。

では、どこが痛みやすく、どのような症状が出るのでしょうか?
3.なぜ足関節捻挫が多いのか?
足関節の構造を理解すると、なぜ捻挫が多いかが明確になります。
足首は、外側(小指側)に倒れやすい構造をしているため、外側の靭帯の損傷が起きやすいと言われています。
主に損傷する靱帯はこちら↓↓
・前距腓靱帯(ATFL) → 最も損傷しやすい(80%以上)
・踵腓靱帯(CFL)
・後距腓靱帯(PTFL)
このうち 前距腓靭帯(ATFL)は細く、緩みやすく、内側にひねる(内反)ストレスに弱いため
捻挫の中心になります。
“内反捻挫”が圧倒的に多い理由
・つま先は内側に向きやすい
・体重が外側に乗りやすい
・バスケの動きのほぼすべてが内反方向の負荷を増やす
・バランスを崩した時に自然と「内側へ倒れやすい」

これらの結果として、外側靱帯が引き伸ばされ損傷するのが典型的な捻挫です。
4.捻挫の重症度(どこが傷つき、どれくらいのダメージか)
捻挫は「軽症」から「重症」まであります。
Grade I(軽度)
組織が伸張されている状態。
・わずかな腫脹(ほとんど目立たない)
・関節可動域(さまざまな方向への動き)および筋力の軽度低下(0~25%)
・関節の安定性低下はみられない
Grade II(中等度)
組織の伸張に加え、一部に断裂を伴う状態。
・中等度の腫脹(「野球ボール大」に見えることもある)
・多くの場合、皮下出血(内出血)を伴う
・関節可動域および筋力の中等度低下(25~75%)
・関節安定性の軽度低下がみられる
Grade III(重度)
組織が完全に断裂している状態。
・著明な腫脹および皮下出血
・関節可動域および筋力のほぼ完全な消失(75~100%)
・関節安定性の明らかな低下
(参考文献:Nationwide Children’s Hospital: The sprains and strains of sporting injuries
https://www.nationwidechildrens.org/specialties/sports-medicine/sports-medicine-articles/the-sprains-and-strains-of-sporting-injuries-article)
軽症ほど「放置されがち」ですが、しっかりと初期対応やリハビリを行わないと再発を繰り返すことが
問題となります。では、どのような対応が望ましいでしょうか?
5.捻挫をした時の正しい対応
捻挫をしたあとに指導者や選手が出来る事は何でしょうか?
スポーツ中の捻挫や打撲などのケガに対する応急対応は、時代とともに考え方が変わってきました。
ここでは代表的な3つの処置の考え方を、分かりやすく紹介します。
〜PRICE・POLICE・PEACE & LOVEを簡潔に解説〜
① PRICE処置(従来の考え方)
PRICE は、以前から広く知られている応急処置です。
・P:保護(Protection)
・R:安静(Rest)
・I:冷却(Ice)
・C:圧迫(Compression)
・E:挙上(Elevation)
ケガをした直後は「冷やして、動かさず、腫れを抑える」ことを重視していました。
ただし、安静にしすぎると回復が遅れるという課題も指摘されるようになりました。
② POLICE処置(現在よく使われる考え方)
そこで登場したのが POLICE処置 です。
・P:保護(Protection)
・OL:最適な負荷(Optimal Loading)
・I:冷却(Ice)
・C:圧迫(Compression)
・E:挙上(Elevation)
PRICEとの大きな違いは、「安静(Rest)」ではなく「最適な負荷(Optimal Loading)」を入れる点です。
痛みが出ない範囲で少しずつ動かすことで、回復を早め、再発を防ぐことが期待できます。
③ PEACE & LOVE(最新の考え方)
近年提唱されているのが PEACE & LOVE と言われ、受傷直後から回復期までを一貫して管理する考え方です。
◆ PEACE(ケガ直後)
・P:保護
・E:挙上
・A:抗炎症薬を避ける
・C:圧迫
・E:教育(無理をしない、正しい理解)
◆ LOVE(回復期)
・L:負荷
・O:楽観思考
・V:血流促進
・E:運動
身体だけでなく、心理面や理解も回復に重要と考えられています。

つまりこの背景を現場で活かすと
昔:冷やして安静 今:守りながら、動かす これから:身体+気持ちの回復まで考える
という対応が大事になります。
ケガをしたときは、「とにかく休ませる」だけでなく、回復を早める正しい関わり方が大切です。
これを踏まえ、初期対応に臨みましょう!
そして何より早期診断が重要です。捻挫かと思ったら骨折していた・・なんてことも意外と多くありますので、
不安であれば近隣の整形外科を受診してください。
では、最後に捻挫しない為の予防法についてお伝えします。
6.捻挫は予防できる?
捻挫は日頃から練習の中で予防メニューを取り入れることで予防しやすくなります。
最新の研究では、以下の対策が明確に再発率を下げることが示されています。
① バランス訓練(最重要)
・片脚立ち
・片脚スクワット
・不安定板
→ 再発率を40〜60%減少(Emery CA, Clin J Sport Med, 2007)
不安定板が無かったり、簡単に出来る場合は目を閉じて再チャレンジしてみましょう!意外と難しいですよ。
② 着地トレーニング
・ジャンプの後に“静止できるか”
・二段階着地(柔らかく沈む)
着地はなるべく床の音が出ないようにすると、衝撃吸収がしやすくなります。
③ 足部・股関節の筋力強化
・ヒラメ筋・腓骨筋の強化
踵上げをすると鍛えられます。片脚で連続20回しっかり踵上げが出来るようにしましょう。
・股関節外転・外旋筋
スクワットの姿勢からカニ歩き(横移動)をすると鍛えられます。
頭が上下しない事や膝が前に出すぎないように注意しましょう。
足だけでなく股関節の安定性も捻挫予防に重要になります。

たかが捻挫と思わず、指導者・選手が一丸となって捻挫予防を意識していきましょう!
次は、練習の負荷量と怪我ついてお伝えしたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!





